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大分家庭裁判所 昭和49年(家)125号 審判

大分県○○児童相談所長

申立人 X

事件本人 A 昭和○年○月○日生

(右事件本人の保護者親権者父) B

主文

申立人が事件本人を養護施設に入所させることを承認する。

理由

一  申立人は主文同旨の審判を求め、その実情として「事件本人は、その親権者父Bおよび継母Cのもとで養育されているものであるが、継母Cは事件本人が学校から帰宅しても同人を家の中に入れないで長時間屋外に立たせたり、些細なことで事件本人に暴力を加えるなどして同人を虐待し、父Bは昭和四九年一月二八日午後七時三〇分ごろ自宅において事件本人の態度が悪いことを理由に同人を殴打したうえ同人の頭から熱湯を浴びせて強度の火傷を負わせ、さらに上記火傷の治療を行なわずに放置するなどして事件本人を虐待し、その監護を怠つているものである。したがつて、上記親権者のもとでは事件本人の健全な育成を望むことができないので、事件本人を養護施設に入所させることが必要であるが、上記親権者はこれに同意しないので児童福祉法第二八条により事件本人を養護施設に入所させることにつき承認を求める。」と述べた。

二  そこで申立の当否について検討するに、当庁昭和四六年(家イ)第二九七号夫婦間の調整申立事件の記録、家庭裁判所調査官D作成の調査報告書、いずれも申立人から取寄せた児童福祉記録中に存する「Aの取扱い経過」と題する書面、心理判定票三通(昭和四九年二月一三日付、同年同月一五日付二通)、一時保護児童行動観察票、医師E作成の診断書ならびに参考人F、親権者Bおよび事件本人Aに対する各審問の結果によれば、事件本人は父Bと母G(現姓G1)間の長男として出生したが、父Bに酒乱の癖があり、妻子に対して暴力を振うことが絶えなかつたので、上記Gは昭和四六年九月二八日事件本人およびその弟Hを伴なつて家出をし、県aセンター婦人寮に収容され、事件本人およびHは同年一一月四日大分市養護施設b園に収容委託されていたことと、上記Gは昭和四六年九月二八日当庁に夫婦間調整の調停申立を行ない、昭和四七年七月二〇日離婚の調停が成立し、事件本人およびHの親権者は父Bと定められたこと、Bは昭和四八年一月二九日Cと再婚し、同年三月二二日上記養護施設に収容中の事件本人およびHを引取つたこと、上記引取後事件本人は父Bおよび継母Cのもとで養育されることになつたが、継母Cは事件本人の知能程度が低いとの偏見をもち(申立人が昭和四九年二月九日行なつた鈴木ビネー式知能検査の結果によれば事件本人はIQ一〇六、知能年齢七歳四月、生活年齢六歳一一月であつた。)、同人を養護学級に転入させようとしたり、昭和四八年一一月および一二月ごろ、事件本人が学校から帰宅しても同人を家の中に入れずに寒い屋外に長時間立たせたまま放置したり、同人に食事を与えなかつたりしたこと(この事実に関し○○警察署長は昭和四八年一二月一〇日申立人に対し、児童福祉法による通告を行なつていた。)、また父親のBは、昭和四九年一月ごろ、事件本人がたびたび火遊びをくり返したことを折檻するため、同人の右手に四ヶ所にわたり煙草の火を押しつけたり、同月末ころ同人がみかんを盗み食いしたことに立腹し、同人の頭から熱湯を浴びせて同人に対し加療約一五日間を要する背部、左肩、前頭部、右手首熱傷(第二度)の傷害を負わせたうえ、その治療も施さずにこれを放置したこと、そこで上記事実を探知した○○警察署長は昭和四九年一月二九日申立人に対し児童福祉法第二五条による通告を行ない、申立人は同日事件本人を一時保護したこと(その後養護施設c園に一時保護委託)、事件本人の性格は意思強固、反抗心の強い性格であるが両親から受けた圧迫により感情の抑圧、心的緊張が著しく増長し、両親に対する依存心を失ない、父親のもとに帰ることを嫌悪し、また継母および実弟Hに対する思慕の念も示さず、一時保護の委託先に落着いて徐々に明るさを取り戻し、新しい環境での生活に順応しようとしていること、一方父親は事件本人の引取りを希望しているが、その性格は気分の変化が大きく感情的になりやすい性格であることが認められる。

以上の事実によれば、事件本人を親権者である父親の監護に服させることは、事件本人の感情的抑圧、心的緊張を亢進させ、反抗心を助長させることが明らかであり、また保護者が事件本人に対し再び前記のような体罰を加えるおそれがあることも明らかである。したがつて、事件本人を親権者である父の監護に服させることは著しく事件本人の福祉を害するものと考えられるので、事件本人を養護施設に入所させるのが相当である。

よつて本件申立は理由があるから、児童福祉法第二八条により、主文のとおり審判する。

(家事審判官 高橋正)

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